あなたはとても寂しそうにそう言った。
「どんな夢を見たの?」
私が聞くとあなたはもっと寂しそうに
「大切な人を亡くす夢。」
涙さえも流しそうなそんな声でそう言った。
「大切な人って誰だったの?」
もしかしたら自分の事かもしれない。
そんなことをわずかに私は想った。
涙を流しそうなほど、失いたくない大切な人。
だけどあなたは首を横に振った。
「誰だかわからない。でも、とても大切な人。」
「そう。でも、誰だかわからないのに、どうして大切な人なの?」
どこか残念な気持ちを抑え、あなたに疑問を投げかける。
「夢の中で、泣いてたんだ。顔も見えないその人のために。
心がとても苦しくて。目が覚めた時にも泣いていた。」
そう言うと、またあなたは顔を曇らせた。
「そうなんだね。でも、それって悲しい夢かもしれないけど、
怖い夢ではないんじゃないの?」
そう聞くとあなは私の目を真っ直ぐに見つめた。
その目はとても優しくて、でも寂しそうに私を映した。
「大切な人が誰だかわからないことが怖かった。
もし、夢の誰かが君だとしたら、君を失うことが、
そして、そんな君をわからない自分が心の中に
いるかもしれないということが、何よりも怖かった。」
言い終わるか終わらないか、あなたは私を抱きしめた。
私はその背中を、何も言わずに抱きしめ返した。
夢の中の誰かが、私じゃなくても構わない
私にとっての大切な人が、間違いなくあなたならば。

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